一般に,サービス学の対象は広範かつ複雑であり,観察も制御も行いにくい.サービス・ドミナント・ロジック (Vargo et al. 2004) など価値創出の考え方の指針を示す概念は提案されているが,サービスの設計指針,最適化を目指すためのフレームワークとはなっていない.本研究会では,新たなフレームワークの中心概念として「サービス・ケイパビリティ」を打ち出し,研究を進める.経営学で議論されているケイパビリティ(組織能力)の考え方を軸に,サービス理解や最適化などへの展開を指向するものである.
経営学のケイパビリティ概念の背景には,経営資源を中心に企業を考えるアプローチ (RBV: Resource-Based View) がある.RBVはPenroseなどの先駆的な業績を受けて1980年代半ばに本格的に台頭し,企業の競争優位の源泉を説明する代表的な枠組みとなった (Barney, 1997など).RBVでは企業が保有するヒト,モノ,カネ,情報という資源,それらを活用する力としてのケイパビリティに焦点を当てる.企業によって異なる経営資源とケイパビリティが,実現できる企業行動の違いを生み,結果として,利益などの企業の成果が異なると考える.
ここで,ケイパビリティの内容は組織全体が持つ行動や知識の体系である.行動も知識も,過去の経営行動に根ざしている (経路依存的).それもあって,競合他社は模倣しにくい (模倣困難性).したがって,独自のケイパビリティを構築すれば,比較的長い期間,他社との差をつくり,利益を獲得するための源泉にできる.
本研究会では,サービス・ケイパビリティを「利害関係者や資源の制約を解決し,うまく結びつけ活用する能力」であると定義する.サービス経営資源の活用に関する,このような能力を規定すると,まさにサービス・ケイパビリティの優劣が,サービス価値の創出や生産性に影響を与えているといえる.また,個々の組織がもつサービス・ケイパビリティは,上述の意味で,経路依存的であり,かつ,模倣困難性があると考えられる.それゆえ,サービスを提供する企業や組織,もしくは現場が,過去の活動を通じて地道に独自のサービス・ケイパビリティという能力を構築することこそが重要であり,よいサービスを生む源泉になるという見通しが立つ.
こうしたサービス・ケイパビリティは,本来,サービスの全てのプロセスで働く.ただし,一つの重要な局面は個性をもつ利害関係者や,独自性のある資源を上手く結びつけることである.例えば,メカニズムデザイン分野で研究されている学生と学校のマッチング問題のように,サービス提供の早い段階で利害関係者や資源を適切に組み合わせる方法が分かれば,その後のサービス提供はスムーズに進み,最終的な成果を高めやすくなる.換言すれば,ミスマッチを防ぎ,不必要な労力を避け,利害関係者が正しく努力できるようにすることが,サービス・ケイパビリティの重要な要素である.そのように考えれば,マッチングに関する理論が,サービス・ケイパビリティのフレームワーク構築としての重要な出発点となり得る.
以上を背景に,本研究会では「サービス学フレームとしてのサービス・ケイパビリティの研究と実践」を目的として掲げ,具体的には以下の項目を実施する.
このように,サービスをマッチング問題として捉えるなど,見通しの良い考え方(フレームワーク)を導入することにより,共通的な研究・実践の可能性が開けると期待される.いわば,資源の制約や利害関係のある複雑なサービスを扱う際に,よい設計指針,よい塩梅(バランス)の指針を与えることに相当する.
本研究会は,サービス学フレームワークとしてのサービス・ケイパビリティに関する理論と実践を行っていくことを目的として設定する.また,アカデミアと実務家の両者を含めたサービス学会関係者が取り組むべき課題として活動を遂行し,サービス・ケイパビリティについて徹底的に議論し,実践的なアウトプットを目指す.
参加希望の方は下記URLから申し込み下さい.なお,希望参加SIG名で「サービス・ケイパビリティ」を選択してください.サービス学会会員以外の方でも参加できます.
http://ja.serviceology.org/introduction/sig_participation.html