持丸正明(国立研究開発法人産業技術総合研究所 人間拡張研究センター長)
このたび、5代目の会長を務めることとなりました。学会設立前の2011年当時、産総研・サービス工学研究センター長として、諸々の学会準備作業に関わっておりました。学会も設立10年を迎え、早くも会長のお役目を担うときが来たのだなと実感しつつ、気を引き締めて対応して参りたいと思っております。設立準備段階の私の楽観的な目論見に比べると会員数は伸び悩んでおります。また、コロナ禍の下で国内大会も遠隔開催やハイブリッド開催が続き、学会のもっとも重要な役割である会員間の交流や研究のディスカッションの機会が損なわれているとも感じています。コロナ禍は多くのサービス業に深刻な影響を与えている一方、DXを通じて製造業のサービス化を加速している側面もあるようです。いずれも、サービス学の貢献が求められる局面であり、学界・経済界・社会からサービス学が期待されているときでもあります。この機を活かし、会員間の交流を取り戻し、(設立準備段階の楽観的な目論見ほどでなくとも)学会の財務経営を安定化させるに十分な会員数まで伸ばしていくことが、5代目会長の使命だと認識しています。産学・文理が入り交じった楽しく意義のあるディスカッションができるサービス学会を、会員の皆さまと共に守り、伸ばして参りたいと思います。
サービスは経済の主要活動であるとともに、生活の質(Quality of Life)の向上、地域社会の繁栄、ひいては地球規模問題の解決の基底となる重要な要素である。グローバル化する市場においては、製品やサービスの経済学的価値を高めることが求められる一方、サービスを利用する個々の生活者にとっての価値(生活価値)を高めることが重要である。また、エネルギーや環境をはじめとする地球規模の問題の解決や社会価値の創出に向けては、サービスに関わるステークホルダ間の共創的意思決定を促す制度設計も求められる。
従来、サービスの関連研究は、経営学やマーケティング、情報工学や設計工学といった個別の研究分野で発展してきた。しかしながら、社会においてより良いサービスを実現するためには、社会科学、人間科学、理工学の協調が必要であるとともに、産業界と学術界との強い連携が不可欠である。そこでは、社会および経済のサービスに関わる活動、すなわち、狭義のサービス業のみならず、製造業等におけるサービス化も含めた包括的なサービスに対する学術的理解を確立し、顧客と共に高い顧客満足度を共創する体系の展開が必要である。
サービスはグローバルに展開されている一方で、その国の文化や社会的背景に強く影響される。今般、本学会は日本発で設立するが、世界規模で展開する予定である。すなわち、本学会は各国文化を尊重しつつ、世界に開かれた学会であることを志向する。
本学会は、サービスに関する広範な知識を体系化することで、様々な産業課題の解決に寄与し、よって、サービスに関わる「社会のための学術」を構築することを目的とする。この目的のために、和文名ではサービス学を、英文名には「学」を意味する -ology を採用し、社会科学、人間科学、理工学を問わず、サービスに携わる様々な分野の研究者が交流し、互いを尊重し、切磋琢磨できる新たなコミュニティの育成を先導する。
2012年10月1日
サービス学会 設立準備会 世話人
新井 民夫(芝浦工業大学)
伊藤 元重(東京大学)
持丸 正明(産業技術総合研究所)
淺間 一(東京大学)
秋草 直之(サービス産業生産性協議会代表幹事)